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このページでは舟宿にまつわるいろんなお話、屋形舟の歴史をご紹介しております。
不定期ではございますが少しづつ更新して参りますので、お楽しみください。ぜひご意見・ご感想などお寄せください。

甦る問屋街(よみがえるとんやがい)

「よみがえるとんやがい」パンフレット
皆さんが手に持って「まち歩き」するパンフレット。
これも素敵です。江戸紫が効いています。

10月1日(土)〜10日(月)。東京をユニークな視点から再発見し、また新たな文化を創り出していこうという試みが行われました。
その内容については「つれづれ」、詳しくは「よみがえるとんやがい」のホームページをご覧ください。

こうして船宿を営んでいますと、学生さんが多く訊ねて来ます。さまざまな研究があるのですね。専門学科によって質問が違うのですが、あらゆる範囲に亘って質問がとんできます。時には、こちらも資料を探さなければ即答できないような事まで。

今回のワークショップに参加している学生さんたちとの関わりは昨年の夏頃からになります。 「よみがえるとんやがい」と銘打って横山町・馬喰町問屋街のエリアを学生さんたちの視点で見て、より良く変えていこうというテーマです。ここ東日本橋も、柳橋も含めてです。

初音森神社
メイン会場となった初音森神社。
(写真提供:下町けんちく倶楽部)

小学生の頃を思い返せば、放課後に横山町・馬喰町の問屋街でよく遊んだものです。同級生の家の仕事が問屋さん。そのような家が場所柄、多かったのです。
軒と軒がびっしりくっついている問屋街の中、思いがけない所に大通りに出られる路地があったりして、鬼ごっこやかくれんぼにはとてもおもしろく、駆け回っていました。
店先を見て歩いても、いろいろな品物が溢れんばかりで、大きな荷物を抱えた人々が忙しげに行きかう活気ある街でした。

その当時に比べれば、流通経路が多少なりとも変わったのでしょうか、また、人々の求める嗜好も変わってきたのでしょうか、確かに昔ほどの賑わいはないようです。

今回の「よみがえるとんやがい」では、
1.まちのたからものをリデザインする。
2.まちのこまりものをリデザインする。
3.日本橋問屋街ゲートのリデザインする。
この三つの課題の中から一つを選んで提案するのだそうです。

個人的には、街の困りものとして何を選び、どうデザインするのかとても興味があります。さてさて、お手並み拝見!

小松屋に設置されたカードとポスター
 
しゃれた「まちあるきカード」
これが小松屋に設置された「まち歩きカード」。柳橋の説明がなされています。
この左側にあるのがつれづれでご紹介したポスターです。
こうしたものをエリア内のいろんな所に設置。

10月1日 「まちあるき」に学生さん達がこのエリアをまわって、撮影・観察をしていました。彼らがその手がかりとする「まち歩きカード」を各ポイントに設置。小松屋も、「柳橋」のポイントカード設置に協力させていただきました。

「つれづれ」にも掲載しましたが、このポスターのセンスの良いこと。パンフレット等も、この「江戸紫」の色を使っています。
江戸時代、「ムラサキ」という植物が武蔵野地方特産でしたが、この根で染めた色を「江戸紫」と呼びました。神田紺屋町に紫染めを専門にする染め屋さんがあり、井の頭の湧水を源流とする、ここ神田川の水で染め上げ、江戸の特産品にまでなったということです。

歌舞伎の「助六」を思い出してみてください。黒羽二重に虹色の胴裏、そして縮緬の「江戸紫」の鉢巻。当時の江戸っ子が憧れる男伊達のなんと粋なこと。

その「江戸紫」を印象的に使っていることに、それこそ、脱帽。
大好きな色彩のひとつですので、ついつい脱線してしまいました。そして…

10月8日 「まちあるき」後に作成した作品を発表。70名もの参加者で、熱気ある発表がされたそうです。屋形船の出船のため、参加できなかったのですが、これらの内容は「よみがえるとんやがい」ホームページで紹介されました。早速、見てみると…
思わず笑ってしまうものやら、なるほど、こうきましたか…と思わせられるものやら、なかなかバラエティーに富んでいます。
ひとつ私が気に入ったものが、

「すばらしい景色を失うな」

神田川沿いの浅草橋から柳橋までの、柳の小道に対しての、ひとりの学生のこの声。とても、うれしくもあり、印象の強い題名に、この景観を守るべき大人としての責任を問われているような気がします。

実際は、夜になると、このテラスを歩く人が極端に減ってしまいます。日のある内は、昼休みでコーヒー片手に寛ぐ会社員や、ジョギング、散歩する人たちや、東京のガイドブックを持った方たちで、大勢の人たちが行きかうのに、やはり、暗すぎるのでしょうね。

この学生さんのように、紅い提灯型の街灯も華やかですが、情緒ある足元を照らす行燈(あんどん)か、柳橋のランプのような淡いオレンジの灯りを灯すランプ型の照明も、この雰囲気を壊さないで、すてきだと思い、区役所にお願いしている真っ最中なのです。

学生さん達の町歩きの様子
「まちあるき」の様子
10月1日行われた「まちあるき」の様子。
(写真提供:下町けんちく倶楽部)

柳橋という名前のとおり、神田川沿いに柳が植えられ、ぶらぶら歩きながら、行きかう屋形船に手を振り、ちょっと立ち止まって一息つく――。そんな場所が、この都心の真ん中にある、この趣き、景色を失うようなことがないようにとがんばっています。
若い人からみても「すばらしい景色を失うな」と応援されたみたいで、本当にうれしい気がしました。

学生さんたちと話をしていると、素直に話を吸収しようとする気持ちを持ちつつ、若い感性ゆえの発想のおもしろさや、ある意味、怖さを知らない新鮮な感性とでもいうのでしょうか、最初から諦めてしまうというバリヤーを張っていない事に気がつきます。

始める前から、色々な制約・しがらみを気にして、一歩が進めない大人からすれば、うらやましいくらいです。

何年も前から「街興し」という言葉をよく目にしたり、聞くようになりました。
けれども、「街興し」というと、イベントや目立つ事をしてそれだけで終わり…という事が多いような気がします。

確かに目新しいものに、衆目が集まりますが残念ながら、それはその時だけの事になってしまいがち。一番、大事な事を忘れているのではないかと思うことも、しばしばあります。
その土地・地域での古くから培われてきた仕事、慣習、実際に暮らしている人々の気持ちなど、言い換えれば歴史・本質をきちんと踏まえたうえで再生していくべきではないのでしょうか?

実際にあるものを、全て取り壊して新しく作り上げるほうが、それは簡単でしょう。それよりも古くからあるものを活かしながら続けていく。
その姿勢がないと、ただの一過性の「できごと」になってしまうのではないでしょうか。

「壊して新しく作る」から「古きものを活かして、その地に根付いたものに、新しい風を吹き込み継続していく」事が文化を創り出し、歴史にもなり得るのではないでしょうか?

その地で生活している人の話や意見も聞かず、ほとんど誰も知らないうちに結論を出しイベントを行う市民団体や行政機関もあるようです。

そのような事にならないようにその地域の人々が自身でよく認識し、新しいもの・声にも柔軟に耳を傾け取り入れる姿勢がないといけないのだとも。
また、頑固なくらい守っていくべきものをしっかり守るべきだとも思うのです。

「よみがえるとんやがい」プレゼンテーション
10月8日発表の様子
(写真提供:下町けんちく倶楽部)

街や物の盛衰は、どうしてもその時々に起こります。時の流れを止めることは叶いません。けれど、変わっていいものと変わってはいけないものを間違えてはならないと…考えています。

今回のワークショップのスタッフの学生さんたち、頑張っていました。お祭りや盆踊りで参加して楽しみ、長い間に亘っての、いろいろな人への聞き取り、何度も行われた勉強会・講演会や屋形船で川辺からの街の移り変わりを見たりなど、一生懸命に取りくむ姿や熱意に私たちも考えさせられました。

できれば、これからも、なにかしらの関心、関わりをいつまでも持っていてほしいと願っています。

下町けんちく倶楽部デザインワークショップ
よみがえるとんやがい http://uno-lab.tu.chiba-u.ac.jp/dws05/

女将

2005年10月18日

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